新型コロナウイルスの感染を防止するための3Gルールが11月下旬に職場にも適用された。ワクチンの接種完了、感染からの快復、陰性のいずれかを証明することが義務付けられるており、非接種者(未接種の快復者は含まれない)は陰性証明を提示しないと職場に入ることができなくなった。企業によっては同ルールの施行前に陰性証明を被用者に義務付けていたが、これを拒否した被用者は最終的に解雇され得る。そんな判決をハンブルク労働裁判所が11月に下したので、取り上げてみる(訴訟番号:27 Ca 208/21)。
裁判はライドシェア企業の運転手が同社を相手取って起こしたもの。同社は乗客の感染を防ぐため、感染の有無を調べる迅速抗原検査を受けることを全運転手に義務付けた。検査費用は同社が負担した。
原告は同ルールの適用を受けた初日に当たる6月1日、検査を受けることを拒否した。このため雇用主はその日の勤務を免除したうえで、口頭で注意を行った。それにもかかわらず、翌日と翌々日も原告が検査を拒否したことから、8日付の文書で7月15日付の解雇を通告した。
これに対し原告は、綿棒を鼻の奥に入れる検査は粘膜を刺激し怪我をする恐れがあると主張。検査の強要は憲法(基本法)で保障された身体の不可侵の侵害に当たるなどとして、解雇無効の確認を求め提訴した。
一審のハンブルク労裁は、文書による警告処分を経ずに被告が原告を解雇したことを問題視し、解雇は無効との判決を下したものの、検査を被用者に義務付けること自体は、労働契約、社内合意、労使協定、法令の規定に反しない限り雇用主は被用者の勤務の内容を「公正な裁量(billiges Ermessen)」に従って詳細に決定できるとした営業令(GewO)106条の規定に合致していると指摘。原告が仮に、度重なる警告処分にもかかわらず検査を拒否し続けた場合は解雇され得るとの判断を示した。
綿棒を鼻の奥に入れることについては、やや不快であるものの身体の不可侵性に対する侵害度は極めて小さいとして違憲には当たらないと言い渡した。また、新型コロナに感染すると死亡したり深刻な後遺症(ロングコビット)が残るケースがあることを指摘。そうしたリスクは綿棒を鼻に入れることに伴うリスクを大幅に上回るとして、人々の生命・健康を守るために社員のコロナ検査を実施することは妥当だとの判断を示した。
上訴は認めなかった。
職場の3Gルールは期間が2022年3月19日までとなっており、延長されない限り同20日付で失効する。このため、同日以降も社員に検査を義務付ける企業は営業令106条で認められた雇用主の指示権を根拠とすることができる。