ワクチン接種で健康被害は労災か

新型コロナウイルス対策として大きな企業などはワクチンの職域接種を実施した。では、接種に伴う健康被害が被用者に出た場合、労働災害とみなされ、補償を受けることができるのだろうか。新型コロナではないが、ワクチン接種に伴い健康被害を受けた被用者が起こした訴訟で、ラインラント・ファルツ州社会裁判所が9月に判決(訴訟番号:L 2 U 159/20)を下したので、取り上げてみる。

裁判は病院の子会社で病院食を作る企業の社員が労災機関を相手取って起こしたもの。同病院では患者に接触するすべての職員にインフルエンザの予防接種を無料で提供した。同子会社の社員も対象となっていたことから、原告は接種を受けた。接種は任意で、義務付けられてはいなかった。

原告は接種の数年後、自己炎症性疾患を患った。原因がインフルエンザ予防接種にあることが判明したため、労災機関に補償を請求。拒否されたため提訴した。

一審は原告の訴えを退け、二審のラインラント・ファルツ州社会裁も棄却した。判決理由で同州社会裁の裁判官は、原告は労使協定や労働契約で接種を義務付けられていないうえ、雇用主からも指示権の枠内で接種を命じられていなかったと指摘。接種が義務でなかった以上、労災には当たらないとの判断を示した。

また、予防接種を受けることは雇用主の利益に寄与するものであり、それに伴う健康被害は労災保険の対象となるとした原告の主張については、原告が患者に直接、接触する仕事をしていなかったことを指摘。予防接種を原告が受けなくても患者のインフルエンザ感染リスクは高まらなかったとして、原告のこの主張も退けた。

裁判官は上告を認めており、判決は確定していない。

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