即時解雇には事実に基づく具体的容疑と本人の釈明が必要

被用者を即時解雇するためのハードルは高く、単に違法な行為や重大な労使契約違反が疑われるだけでは実施できない。この原則に基づく判決をメクレンブルク・フォーポマーン州労働裁判所が5月に下したので、今回はこれを取り上げてみる(訴訟番号:2 Sa 269/20)。

裁判は2019年5月1日付で採用されたアイス販売店の店員が雇用主を相手取って起こしたもの。被告は6月23日に店舗に立ち寄った際、コップの中に硬貨が大量に入っているのを見かけ、原告が売り上げの一部を入金せず、横領していると推測。原告がコップ内の硬貨を翌24日に同僚Kと分け合ったことを受け、30日付の文書で即時解雇を通告した。また、念のために1カ月の解雇予告期間を設定した通常解雇も通告した。

これに対し原告は、コップ内の硬貨は顧客から得たチップであるとして横領容疑を否認。解雇の取り消しを求めて提訴した。一審のシュトラールズント労働裁判所ノイブランデンブルク支部は通常解雇は有効だが、即時解雇は無効だとの判決を下した。

二審のメクレンブルク・フォーポマーン州労裁は一審のこの判決を支持した。判決理由で裁判官はまず通常解雇について、雇用期間が6カ月以下の被用者は理由の如何を問わず解雇できるとした解雇保護法(KSchG)1条1項の規定に基づき有効だと言い渡した。

一方、即時解雇については無効だとの判断を示した。裁判官はその根拠として、即時解雇が認められるのは労使の信頼関係が著しく損なわれ雇用関係を継続できなくする「重大な理由」がある場合に限られるとした民法典(BGB)626条1項の規定を指摘。そのうえで、違法行為や労使契約違反の容疑に基づく即時解雇が可能なのは、◇容疑が客観的な事実に基づいており、ほぼ間違いないと判断される◇事実関係の解明のために雇用主が可能な限りの努力を行い、容疑対象の本人には釈明の機会を与える――の2要件を満たすケースに制限されるとした03年11月11日の最高裁(連邦労働裁判所=BAG)判決を挙げ、原告の即時解雇はこの要件を満たしていないと言い渡した。BAGへの上告は認めなかった。

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