マスク着用命令は雇用主の義務

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための法令に基づいてマスクの着用が義務付けられている職場で着用を頑なに拒否する被用者を解雇することは妥当かどうかについて現時点で最高裁判決は出ていない。だが、これまでの下級審の判決をみると、解雇はやむを得ないというのが裁判官の共通判断となっているもようだ。今回はコットブス労働裁判所が6月に下した判決(訴訟番号:11 Ca 10390/20)を取り上げてみる。

裁判は言語療法診療所で働く被用者が雇用主を相手取って起こしたもの。原告は2020年8月上旬まで育児休暇を取っていた。勤務の再開に先立つ8月7日、診療中はマスクを着用する義務を雇用主から伝えられたものの、医師の診断書を提示して休暇明け初日の10日に着用を拒否。被告は着用に伴う原告の負担を軽減するため様々な種類のマスクを提供したり、休憩時間を増やすなどの便宜を図ろうとしたが、原告は拒否の姿勢を改めなかった。被告はこれを受け、解雇予告期間を設定した通常解雇を12日付の文書で通告した。

原告はこれを不当として提訴したものの、一審のコットブス労裁は訴えを棄却した。判決理由で裁判官は、マスク着用は感染防止効果があることが科学的に証明されているうえ、密閉された屋内では法令で義務付けられていることを指摘。原告に対する被告の着用命令は正当であるだけでなく、患者、原告、被告を感染から守るための義務だとの判断を示した。また、診療所で感染が発生すれば当局から一時閉鎖を命じられるリスクがあるという事情からも着用命令は妥当だと言い渡した。

医師の診断書については、◇マスクの着用が原告の健康にどのような影響をもたらすのか◇診察医がどのような根拠に基づいて判断を下したのか――が具体的に記されていないことを指摘。無効だとの判断を示した。

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