コロナ禍で不要不急の移動が制限されているにもかかわらず、社員を「危険地域(Risikogebiet)」に出張させるケースがある。その場合、当該社員は帰国後に当局から自宅隔離を命じられるが、仕事ができなくても企業は「賃金継続支給(Lohnfortzahlung)」義務に従いその間の給与を払わなければならない。感染防止法(IfSG)には当局の隔離命令で仕事ができず収入が失われた場合、一定の条件を満たしていれば補償を請求できることが記されている。では危険地域に社員を派遣した企業は賃金継続支給の補償を請求できるのだろうか。この問題に絡む係争でカールスルーエ行政裁判所が6月に判決(訴訟番号:9 K 67/21)を下したので、ここで取り上げてみる。
裁判は機械メーカーがバーデン・ヴュルテンベルク州を相手取って起こしたもの。同社はオーストリアの顧客に納入した自社製品の故障を受けて、技術者を修理に派遣した。独ロベルト・コッホ研究所(RKI)は当時、オーストリアをコロナ危険地域に指定していたことから、同技術者は帰国後、当局から14日間の自宅隔離を命じられた。この間、仕事をできなかったが、同社は給与を支給。その補償を州当局に申請したところ却下されたことから、これを不当として提訴した。
一審のカールスルーエ行政裁はこの訴えを退けた。判決理由で裁判官はまず、当該技術者が出張に出かける時点でオーストリアは危険地域に指定されており、帰国後に隔離を命じられることを原告は予め分かっていたと指摘。技術者が仕事をできなくなったことの責任は原告にあると認定した。そのうえで、訪問先の地域が出発時点で危険地域に指定されていたにも関わらず不要不急の旅行を行った場合は補償を受けることができなとしたIfSG56条1項の規定を挙げ、原告は「企業ないし金銭的な利害に基づいて」不急不要の派遣を行ったとの判断を示した。
原告と被告はともに控訴を認められており判決は確定していない。