解雇通告は期限内に、コロナ禍は遅延理由にならず

コロナ禍で多くの企業は在宅勤務体制を取っている。このため意思疎通や業務が遅れることがあるが、それを理由に解雇通告の遅延が正当化されることはない。ベルリン・ブランデンブルク州労働裁判所が3月の判決(訴訟番号:23 Sa 1381/20)でそんな判断を示したので、今回はこれを取り上げてみる。

裁判は証明書や紙幣の印刷を行う企業の社員が同社を相手取って起こしたもの。原告は高度なセキュリティーゾーンである紙幣印刷室の入り口にあるロッカーを用いて同僚Sに薬物を販売していた。この事実は監視カメラの映像分析と2020年3月6日に会社側が行った原告、S、その他の同僚からの事情聴取で明らかになった。原告は容疑を否認したものの、Sは1錠当たり10ユーロで購入したことを認めた。また他の同僚も、原告が薬物を会社に持ち込みロッカーに保管していると証言した。

これを受け、被告は原告の即時解雇を決意した。解雇予告期間を設定した通常解雇は労使協定で認められていない。

人事部の職員は20日の電話を通して原告に解雇の意向を伝えたうえで、23日に面談を実施。労働契約の合意解除(Aufhebungsvertrag)の草案と即時解雇文書の草案を提示したうえで、合意解除に応じれば勤務を免除したうえで10月末まで雇用関係を継続する意向を伝えた。

原告は合意解除にその場でサインしたものの、翌日になって合意解除は不当な強制によるもので無効だとする弁護士の文書を送付した。これを受け即時解雇の通告を受けたことから、合意解除と即時解雇の無効確認を求めて提訴した。

二審のベルリン・ブランデンブルク州労裁は、労働契約の合意解除も即時解雇も無効だとして、原告の訴えを認める判決を下した。判決理由で裁判官は、会社で薬物を所持していたこと自体は即時解雇に値する行為だとしながらも、雇用主は即時解雇の理由となる問題行動を認知してから2週間以内に解雇しなければならないとする民法典(BGB)626条2項の規定を指摘。被告は3月6日の時点で問題行動(薬物所持)を認知していたことから、即時解雇の通告期限は20日だったとして、期限後に行った即時解雇通告は無効だと言い渡した。

また、原告と面談を行った23日時点ですでに即時解雇の期限が切れていた以上、即時解雇をちらつかせて合意解除に契約させたことは不当であり、合意解除も無効だとの判断を示した。被告は、即時解雇の通告期限を守れなかったのはコロナ禍で人事課の社員が在宅勤務を行っていたためで、不可抗力だと主張。原告の即時解雇は例外的に認められると訴えたが、裁判官から退けられた。最高裁の連邦労働裁判所(BAG)への上告は認められなかった。

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