不正行為の調査費用、対象の被用者に請求できるか

社員の不正行為を調べる調査で発生した費用を雇用主はその社員に請求することができるのだろうか。この問題に絡む係争で、最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が4月に判決(訴訟番号:8 AZR 276/20)を下したので、ここで取り上げてみる。

裁判は被告企業で調達を担当していた役員が同社を相手取って起こしたもの。原告は会社の経費を不正に使用していた。それについての匿名の内部通報が複数あったことから、被告はコンプライアンス専門の弁護士事務所に調査を依頼した。

調査の結果◇原告は接待でないにもかかわらず会社の経費で会食していた◇サッカーのチャンピオンズリーグの試合を観戦するための費用を会社の経費で落としていた――ことが判明。被告はこれを受け原告を即時解雇した。

原告は解雇を不当して提訴した。これに対し被告は反訴。弁護士事務所の調査で発生した費用の支払いを要求した。費用は1時間当たり350ユーロで、総額は20万9,679.68ユーロに上った。

解雇については原告敗訴がすでに確定しており、BAGは今回の判決で調査費用の請求に関して判決を下した。

下級審のバーデン・ヴュルテンベルク州労働裁判所は、解雇通告日までの調査費用については支払いを請求できるとして、6万6,500ユーロの支払いを原告に命じた。原告はこれを不服として上告。最高裁のBAGは原告の逆転勝訴を言い渡した。

判決理由で裁判官はまず、(1)重大な違反についての具体的な容疑をきっかけに雇用主が調査を依頼した(2)被用者による重度の故意の契約義務違反が立証された――場合は調査経費の支払いを請求できると指摘。原告が重大な違反を行っている具体的な容疑はあったとして、調査費用請求の前提条件自体は満たしていることを認定した。

そのうえでさらに、請求できる費用は調査に必要な経費に限られることを指摘。被告は裁判で調査費用が必要だったことを立証できなかったとの判断を示した。具体的にどのような調査がいつ、何時間、弁護士事務所によって行われたかを被告は明確に示すことができなかったとしている。

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