労使関係を雇用主側から解消する方法には解雇のほか、合意のうえで労働契約を解約する合意解除(Aufhebungsvertrag)がある。合意解除は解雇の場合と異なり従業員の代表機関である事業所委員会(Betriebsrat)の同意が不要なため、しばしば活用される。ただ、解雇を脅しにして合意解除を強要することは違法となるので、注意が必要だ。今回はこの問題に絡んだ係争を取り上げる。
裁判は家具製造機械メーカーのチームリーダーが同社を相手取って起こしたもの。原告は上司のいじめを受けている同僚から頼まれて、苦情の文書を作成した。文書は裁判も視野に入れた内容だった。いじめを受けている本人はドイツ語表記が苦手であったため、原告に依頼した。
原告は苦情文を会社のサーバー内の「プライベート」ホルダーに保存した。同ホルダーには原告以外の社員もアクセスできることから同文書は雇用主も知るところとなり、原告は人事担当者の尋問を受けたうえで、労働契約の合意解除を迫られた。合意解除に応じない場合は、問題行動を理由に解雇すると脅した。会社側は同文書を他の社員も閲覧できるホルダー内に保存したことを問題視したのである。
原告はその場で合意解除契約に署名したものの、その後これを不当と思い、同契約の無効確認を求める裁判を起こした。
一審と二審はともに原告勝訴を言い渡した。判決理由で二審のハム州労働裁判所は、脅迫によって強要された意思表明は取り消すことができるとした民法典(BGB)123条の規定を指摘。プライベートホルダー内に苦情文を保存するという原告の行為は解雇処分に値しないにもかかわらず、合意解除に応じなければ解雇するとした被告の姿勢は違法な脅迫に当たると認定した。被用者の行為が法的にみて解雇に値すると判断される場合は、解雇か合意解除かの選択を迫ることに問題はない。
最高裁の連邦労働裁判所(BAG)への上告は認めなかった。