従業員の社内代表機関である事業所委員会(Betriebsrat)のメンバー(事業所委員)を、解雇予告期間を設定した通常解雇の対象とすることは禁止されている。事業所委員は職務上、経営者と対立して報復を受けやすい立場にあるためで、解雇が可能なのは解雇がやむを得ない重大な理由がある場合、つまり即時解雇が可能な場合に限られる。これは解雇保護法(KSchG)15条1項で定められたルールである。では、事業所委員がセクハラを行った場合、この条項を根拠に懲戒解雇することは可能なのだろうか。この問題に絡んだ係争でメクレンブルク・フォーポマーン州労働裁判所が3月に決定(訴訟番号:5 TaBV 9/19)を下したので、ここで取り上げてみる。
裁判はジャガイモ加工品メーカーが起こしたもの。同社の事業所委員長は2016年11月、メッセージアプリ「ワッツアップ」で同僚の女性事業所委員にポルノビデオを4本、送り付けた。同委員はこれを受け、そうしたメッセージを送らないよう委員長に要求するとともに、会社の従業員相談窓口と人事部にセクハラの事実を通報した。また、心理的なダメージが大きかったことから、精神科で受診し、休職した。さらに、医師の勧めに従い、事業所委員を辞任した。
雇用主はこれを受けて、セクハラを行った事業所委員長の即時解雇を決意。事業所委員会の同意を求めたところ、拒否されたことから提訴。解雇保護法(KSchG)15条1項の規定に基づき、裁判による解雇の承認を申請した。
二審のメクレンブルク・フォーポマーン州労裁は原告企業に勝訴を言い渡した。決定理由で裁判官は、ポルノビデオの送付は一般平等待遇法(AGG)で禁じられたセクハラに当たると指摘。被害者の女性社員が◇精神的な打撃で精神科の治療を受け、休職したこと◇事業所委員を辞任したこと◇復職に1年を要したこと――を踏まえ、加害者である事業所委員長の即時解雇は妥当だとの判断を示した。最高裁の連邦労働裁判所(BAG)への上告は認めなかった。
■ポイント
セクハラなどのハラスメントに対し雇用主が適切な措置を取らない場合、被害を受けた被用者は勤務を拒否できる。これはAGG14条で認められた被用者の権利であり、勤務拒否期間中の給与支給は全額、保障される。雇用主はその意味でも、社内でハラスメントが起きた場合、速やかに対策を打たなければならない。