新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、早くも労働法上の訴訟が起きている。今回は、感染から身を守るために被用者がマスクなどを着用することを雇用主は禁止できるかという問題について取り上げてみる。
裁判はベルリン空港内で免税店を運営する企業の事業所委員会(Betriebsrat)が同社を相手取って起こしたもの(訴訟番号:55
BVGa
2341/20)。同空港は新型コロナの感染が発生した中国からの観光客が多く利用するため、従業員の一部は感染を恐れてマスクと手袋を着用して職場に赴いた。雇用主がこれを独断で禁止したことから、事業所委は共同決定権(Mitbestimmungsrecht)の侵害に当たるとして提訴した。労災と職業病の予防策および被用者の健康保護策は雇用主と事業所委が共同決定するとの決まりが、事業所体制法(BetrVG)87条1項7に規定されているためである。
この裁判は被告企業が口頭弁論の開始直前にマスクと手袋の着用を認めたことから、原告が訴訟を取り下げたものの、仮に裁判所の判断が下されたとしても被告は敗訴していたというのが専門家の見方だ。
専門家によると、雇用主は職場での被用者の安全確保と健康保護を定めた労働保護法(ArbSchG)の観点からみても、感染予防のためのマスク・手袋の着用を禁止できない。安全確保と健康保護に向けた措置には予防策が含まれるとの判断を、最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が2009年8月の判決(訴訟番号:1
ABR
43/08)で示しているためである。