余白一滴

2012年に公開されたアニメ映画『009 RE:CYBORG』で、人間兵器の004、ことドイツ人アルベルト・ハインリヒが、一線を退き特殊部隊GSG-9の教官をしているとぼやく場面がある。冷戦が終了したことから軍事予算が削減され、004のための特注の武器の製造が停止されたためである。

実は独国防軍の兵器にも同じようなことが言える。メンテナンスが行われず実質的にガラクタと化しているものが多いのである。

安全保障上のリスクがほとんどなくなっているのであれば、それでも良いのかもしれない。兵器は人を殺すためのものであり、なければないに越したことはないのだから。

軍事予算を削って、国民の生活の向上に充てるというのは自然な流れだろう。現与党であれば、社会民主党は高齢化で財源確保が難しくなっている公的年金の安定化、緑の党は脱炭素社会の速やかな実現のための予算確保が大切だ。小さい政府を掲げる自由民主党は企業と市民の税負担を可能な限り軽減することを目指している。

しかし独政府は軍事予算を可能な限り抑制するというこれまでの姿勢を180度転換した。ショルツ首相は2月27日の議会で、軍事費の対GDP比率を1.4%(2020年)から24年までに2%超へと引き上げ、この水準を保っていく意向を表明したのである。欧州での第2次世界大戦以来の侵略戦争であるロシアのウクライナ侵攻で冷戦後の地域安全保障秩序が完全に崩壊した以上、もっぱら話し合いを通じて国際問題を解決するという従来の姿勢はもはや堅持できない。

NATOは冷戦下の1979年、中距離核ミサイルの配備で西欧諸国を脅かしたソ連・ワルシャワ条約機構に対抗するため、「二重決定」という決定を行った。ソ連に軍縮を呼びかける一方で、西欧諸国に中距離核ミサイルを配備し、軍事的に圧力をかける戦略だ。この結果、軍拡競争が激化し、ソ連は経済が悪化。抜本的な改革が必要となり、ペレストロイカが始まったものの、崩壊した。

NATOの軍事力強化には西側諸国の制裁と連動してロシアの弱体化を加速させる効果がある。20世紀の冷戦思考に凝り固まり超大国の妄想を持ち続けるプーチンとその一味が国民に愛想をつかされ一掃されることが望ましい。

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