●EUは欧州企業の先端技術が流出し軍事転用されることを強く警戒
●域外国への投資規制や輸出管理の強化などを盛り込む
欧州委員会は20日、地政学的緊張の高まりや急速な技術革新に伴って生じるリスクを最小化するための経済安全保障戦略を発表した。中国やロシアを念頭に、人口知能(AI)をはじめとする先端技術の流出や軍事転用を防ぐためのアプローチとして、域外国への投資規制や輸出管理の強化などを盛り込んだ。29~30日に開かれる欧州連合(EU)首脳会議で協議する。
戦略によると、エネルギーを含むサプライチェーンの強靭性、重要インフラのセキュリティー、技術セキュリティーと技術流出、経済依存の武器化や経済的威圧の4分野について、欧州委と加盟国が共同でどのような経済安全保障上のリスクがあるかを特定・評価し、必要な対策を講じる。リスク低減の方策として、域内産業の競争力強化や、共通の利益を有する幅広いパートナーとの連携などを優先課題と位置付けたうえで、比例性や精密性の原則を掲げ、「戦略的自立」を確保するための措置はリスクに見合った限定的なものであるべきとの立場を強調している。
EUは欧州企業が保有する先端技術が域外国に流出し、軍事転用される事態を強く警戒している。戦略では具体的な対策として◇軍民両用のデュアルユース物品に対する輸出管理の強化◇域外国の企業が先端技術や重要インフラを手がけるEU企業を買収したり、出資する際の加盟国による審査(対内直接投資審査)の厳格化◇EU企業による域外国への対外投資規制の導入――などを挙げている。
対外投資規制はAIや量子技術、先端半導体などの分野で域外国に投資した結果、軍事転用されるケースを想定。欧州委と加盟国の専門家らで作業部会を立ち上げ、産業界からも意見を聞いたうえで12月末までに規制案をまとめる。
戦略には中国に関する直接的な言及はないものの、3月にフォンデアライエン欧州委員長がEUの対中政策に関する講演で打ち出した「デカップリング(切り離し)ではなく、デリスキング(リスク低減)」の方針を具体化したものといえる。欧州委のベステアー上級副委員長は記者会見で「経済安全保障上のリスクは第三国の行動に表れている」と述べ、想定する域外国として中国とロシアを挙げた。その一方で、ボレル外交安全保障上級代表は戦略について、保護主義的なものではなく、中国との対立を意図したものでもないと強調した。