●予算執行の一部停止措置解除に向けEUへの圧力を強める
●欧州委は当初、220億ユーロの資金提供を承認していた
ハンガリー議会(一院制)は3日、司法権の独立確保に主眼を置いた司法改革法案を賛成多数で可決した。ハンガリーでは法の支配が十分に機能していないとして欧州連合(EU)予算の執行が一部停止されており、政府は法案の成立を機に、同措置の解除に向けてEUへの圧力を強めたい考え。ただ、EUは汚職対策や性的マイノリティの権利保護などを含む広範な改革を完全な予算執行の条件としており、欧州委員会はハンガリーに対し、EUの基本理念に関するあらゆる懸念に対応するための取り組みを強化するよう求めている。
可決された法案は◇裁判所を監督する独立した司法評議会の権限を強化する◇政府が憲法裁判所に提訴する権限に制限を設ける◇政府が特定の裁判所に事案を付託できないようにする◇外部からの干渉を防ぐため、個々の裁判官が担当する事案の割り当てを自動化する ―― などを柱とする内容。バルガ司法相は3日、「ハンガリーは司法制度改革に向けて(EUが求める)義務を果たしている」と強調。同国に対するEU予算の執行停止措置を早急に解除するよう求めた。
一方、欧州委のヨウロバ副委員長は記者団に対し「(法案可決は)歓迎すべき前進であり、ハンガリーはEUの要求に応えようとしている。しかし、これで(司法改革の)プロセスが終わるわけではない。オルバン政権は採択された法律に沿って改革を進める必要がある」と指摘。さらに法の支配や民主主義などEUの基本理念に関する長年の懸念を払拭するため、「スーパーマイルストーン」と呼ばれる27項目の改善措置を実行するまでEU予算を完全に執行することはできないとの考えを示した。
EUは昨年12月の閣僚理事会で、法の支配の原則に違反した加盟国に対し、EU予算の執行を一時停止することができる規則をハンガリーに適用し、結束基金から同国に配分される資金のうち63億ユーロの交付を凍結することを決定した。ハンガリー側は同規則の発動を回避するため、EU予算の支出先や使途を監視する独立機関および汚職対策のための作業部会の設置など、17項目の改善策を提示していたが、進捗が遅いとして凍結を決めた。
欧州委とハンガリー政府はその後、2021~27年のEU中期予算の執行枠組みを定めたパートナーシップ協定に署名。欧州委はハンガリーが求めていた結束政策に基づく220億ユーロの資金提供を承認したものの、司法権の独立や学問の自由、性的マイノリティの権利などEUの基本原則が遵守されていないとして、状況が改善されるまで同資金の交付を凍結する方針を明らかにした。
欧州委はさらに、新型コロナウイルス禍で打撃を受けた経済の立て直しを支援する復興基金からの拠出についても総額58億ユーロの補助金を承認したうえで、ハンガリー側が打ち出した17項目の改善策に、司法制度改革やEU資金の厳格な管理などを加えた27項目からなるスーパーマイルストーンの完全かつ適切な実行を交付の条件とした。