ドイツの政府・与党は3日、総額は1,300億ユーロ規模の新たな包括的景気対策案を取り決めた。新型コロナ危機で急激に悪化した景気を立て直すとともに、産業競争力を強化することが狙いで、3月下旬に政府が決めた企業支援策に続く第2弾の巨額経済対策となる。メルケル首相は「極めて困難な状況」から共同で力強く回復することが狙いだと意義を強調した。
「景気と将来のための包括合意」と命名された今回の取り決めは、景気の下支えと今後の産業競争で重要な分野の支援の2つで構成されている自動車など特定業界の支援に偏らず、幅広い業界や消費者、自治体に効果が及ぶ内容となっている。
景気下支えに向けては付加価値税(VAT)率を一時的に引き下げる。失業や操短の増加を背景に冷え込んでいる消費を刺激することが狙いで、税率は7月1日から年末までの半年間、標準税率が本来の19%から16%、軽減税率が同7%から5%へと変更される。これに伴う消費者や企業の負担軽減額は計200億ユーロに達する見通しだ。
中小企業の経営破綻を防ぐためには総額250億ユーロの支援を行う。対象となるのは新型コロナの影響で4-5月の売上高が前年同期比で60%以上減少し、6-8月も同50%以上、下回る企業。該当する企業には固定費の最大50~80%を国が3カ月間支援する。支援額には上限があり、従業員数5人以下の企業は9,000ユーロ、同6~10人は1万5,000ユーロとなっている。最大は15万ユーロ。
企業支援ではこのほか、今年の赤字を昨年の黒字と相殺し、税負担を軽減することも取り決めた。
失業者と操短対象者の大幅増を受けて社会保険財政が悪化することから、与党は企業と被用者の社会保険料負担が一定水準を超えないようにすることでも合意した。国の予算で補填を行う。
新型コロナの影響は公共交通機関にも及んでいることから、国はドイツ鉄道(DB)に50億ユーロ、地域公共交通機関に25億ユーロの支援を実施する。
消費者や企業が電力料金を通して支払う再生可能エネルギー電力助成分担金も引き下げる。景気低迷で電力の取引所価格が低下している影響で、同分担金が来年、大きく上昇するのが避けられない見通しとなっているためだ。消費者と企業の同分担金が増えることは景気のマイナス要因となることから、分担金の一部を来年から国が負担するルールを導入する。
市町村に対する支援も実施する。企業の業績悪化を受けて自治体の主要な収入源である営業税収が大幅に減少しているためで、同税収の減少分を国と州が折半して肩代わりする。総額は118億ユーロ。
今後の産業競争力の強化に向けては総額500億ユーロの支援を行う。量子コンピューターと人工知能(AI)の研究開発を税優遇するほか、水素利用の拡大や電動車の普及促進を図る。
自動車業界と自動車産業が盛んな一部の州は景気対策の一環として電動車だけでなく、内燃機関車にも購入補助金を交付することを要求していた。これに対しては経済効果がないとするエコノミストの指摘や、地球温暖化を加速させるとする環境保護団体などの批判、自動車産業優遇に対する他の業界の不満があったことから、与党は今回の合意で同要求を退けた。代わりに電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)、プラグインハイブリッド車(PHV)に対する購入補助金を倍増する。カタログ価格4万ユーロ以下のEVであれば補助金額が3,000ユーロから6,000ユーロに上昇することになる。