EUと英の交渉、4回目も進展なし

EUと1月末にEUを離脱した英国の自由貿易協定(FTA)など将来の関係の構築に向けた4回目の交渉が2日から4日間にわたって行われた。しかし、FTAなど主要問題で大きな進展がないまま終了。交渉の期限が近付く中、双方の首脳が月内に会談し、打開の糸口を探ることになった。それでも溝は依然として大きく、交渉期限を延長するかどうかも大きな焦点となりそうだ。

英国は1月31日にEUを離脱したが、20年12月末までは移行期間となるため、貿易など双方の関係は基本的に変わらない。同期間中にFTAや安全保障、外交、司法での協力など幅広い分野にまたがる将来の関係をめぐる交渉をまとめることになっている。

3月に開始された交渉会合では、最大の焦点となっているFTAについて、EU側が関税ゼロには公平な競争環境の確保が不可欠として、英国が今後もEUの競争法や公的補助、環境、労働者の権利などに関するルールに従うことを要求している。これに対して英国は、国家の主権が侵害されるとして反発。協議は平行線をたどってきた。

もう一つの大きな懸案が、漁業権をめぐる問題。英国はEUの共通漁業政策から離脱するため、自国水域でのEU漁船の操業権を制限することができる。EU側は現状維持を求めているが、英国側は毎年の交渉によって双方の漁船の操業権について取り決めることを要求している。

これらの問題をめぐる協議は今回の交渉でも大きな進展はなかった。このため、英国のジョンソン首相とEUの欧州委員会のフォンデアライエン委員長が月内に会談し、事態の打開に向けて協議することになった。

移行期間中に交渉が妥結しなければ、双方の貿易は世界貿易機関(WTO)のルールに沿ったものとなり、関税が復活する。新型コロナウイルスの感染拡大で経済が疲弊しているEU、英国の両方にとって、さらなる打撃となる。交渉期限は12月末だが、EU側は合意した協定を欧州議会と加盟国が批准するのに時間がかかるため、10月までの妥結が必要としており、残された時間は少ない。

EUと英国の離脱条件を定めた協定では、6月末までに合意すれば、移行期間を22年12月末まで延長することが可能だが、英国側は延長拒否の姿勢を崩していない。首脳級会談では、フォンデアライエン委員長がジョンソン首相に延長に応じるよう働きかける見通しだ。

交渉は暗礁に乗り上げているものの、妥結に向けた気運も芽生え始めている。英国は6月中に交渉の進展がみられない場合は、決裂を前提にFTAなしでの貿易開始に備えることに集中する方針を打ち出していたが、これを取り下げた。今回の会合では交渉を加速させることで一致。6月末または7月初めに次回の交渉会合を開くことで合意した。新型コロナ対策で2日目以降の交渉はテレビ会議で行われてきたが、この方式には限界があるとして、対面方式での直接協議を再開させる方向で調整するもようだ。

また、公平な競争環境をめぐる対立でも妥協案を探る動きが出てきた。英フィナンシャル・タイムズによると、5月に英国側は全品目での関税ゼロを断念し、英国の主要輸出品目である農産物の関税復活を受け入れる代わりに、英国がEU競争法などの適用を除外されるという提案を行った。EUのバルニエ首席交渉官は拒否していたが、今回の交渉終了後の記者会見で、EU経済が不公平な競争環境にさらされるのを防ぐことさえできれば、必ずしも英国をEUのルールに縛り付ける必要はないとの見解を表明。「協力して適切なツールボックスを考え出す必要がある」と述べ、柔軟に対応する用意があるという姿勢に転じた。

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