EUと英の交渉、3回目も進展なし

欧州連合(EU)と1月末にEUを離脱した英国の自由貿易協定(FTA)など将来の関係の構築に向けた3回目の交渉が11日から15日にかけて行われた。しかし、最大の焦点となるFTAで、EU側が前提として求める公平な競争環境の確保をめぐる溝が埋まらず、議論は引き続き入り口時点で停滞。ほとんど進展がないまま終了した。交渉を延長するかどうかを決める期限が6月末に迫る中、次回の交渉が大きな正念場となりそうだ。

英国は1月31日にEUを離脱したが、20年12月末までは移行期間となるため、貿易など双方の関係は基本的に変わらない。同期間中にFTAや安全保障、外交、司法での協力など幅広い分野にまたがる将来の関係をめぐる交渉をまとめることになっている。

FTAに関しては、双方とも関税ゼロでの貿易の継続を目指すことで一致している。英政府はEUとカナダが締結した協定と同様のFTAを念頭に置く。「カナダ方式」ではEUのルールに合わせなくても、ほとんどの関税が撤廃されるためだ。

これに対してEU側は、関税ゼロには公平な競争環境の確保が不可欠として、英国が今後もEUの競争法や公的補助、環境、労働者の権利などに関するルールに従うことを要求している。「いいとこ取り」は許さないという立場だ。しかし、英国側はEUが日本、カナダなどと結んだFTAでそのような要求はしなかったとして、反発している。

今回の交渉でも同問題での意見の対立が解けなかった。もうひとつの大きな焦点である漁業権についても話し合いは進まず、EUのバルニエ首席交渉官は「非常に失望した」とコメントした。

交渉期限は12月末だが、EU側は合意した協定を欧州議会と加盟国が批准するのに時間がかかるため、10月までの妥結が必要としており、残された時間はさらに少ない。EUと英国の離脱条件を定めた協定では、英国側が6月末までに申請し、EUが合意すれば、移行期間を22年12月末まで延長することが可能。EU側では双方とも新型コロナウイルス感染拡大への対応に忙殺されていることもあり、延長が不可欠との声が出ている。

しかし、英ジョンソン首相は延長を拒否。6月までに交渉が進展しない場合は、決裂を前提に、FTAなしでの貿易開始に備えることに集中する方針を打ち出している。6月1日の週に行われる次回の交渉で進展がなく、しかも同月後半に開かれる英国とEUの首脳会議でも打開の糸口が見つからず、ジョンソン首相が期限延長に舵を切らなければ、交渉が暗礁に乗り上げる事態を招きかねない。

このため次回の交渉が大きなヤマとなるが、公平な競争環境をめぐり双方が歩み寄る気配はない。英国のフロスト首席交渉官は交渉後の記者会見で、同問題にこだわるEU側を「イデオロギー的なアプローチだ」と批判。「公平な競争が前提では合意が不可能ということをEUが認めさえすれば、交渉は進展するだろう」と述べ、EU側に次回の交渉で「アプローチ」を変えるよう要求した。これに対してバルニエ首席交渉官は「英経済を利するために欧州の価値観を安易に放棄するつもりはない」と述べ、譲歩しない構えを堅持している。

上部へスクロール