英米がFTA交渉開始、5G・農業・医療分野が焦点に

英米両政府は5日、自由貿易協定(FTA)締結に向けた交渉を開始した。ジョンソン英政権は対米FTAを欧州連合(EU)離脱後の最重要課題と位置付けており、年内にも合意したい考え。ただ、双方は次世代通信規格「5G」や農業、医療などの分野で対立が表面化しており、交渉は難航も予想される。

英国が1月にEUから離脱したことを受け、両国は当初、3月中に交渉を開始する予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で延期されていた。5日からの第1回交渉は約2週間にわたり、約30のグループに分かれてテレビ会議方式で実施。その後は6週間おきに開催される見通しだ。

ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表とトラス英国際貿易相は共同声明で「英米FTAは両国経済の長期的な健全性確保に貢献するものであり、新型コロナがもたらした試練を乗り越えるうえで極めて重要だ」と強調。早期の妥結を目指して交渉を加速させる意向を表明した。

英国にとって米国は最大の貿易相手国で、相互の直接投資も大きく、強固な関係を築いているが、埋めるべき溝もある。英政府は5Gの通信設備をめぐり、中国の通信大手華為技術(ファーウェイ)の製品を一部容認しているが、米側は安全保障上の懸念から同盟国に対して同社製品の排除を求めており、交渉に影響する可能性がある。農業分野では、英国は米国の遺伝子組み換え作物や鶏肉の抗菌処理に強く反対しており、米側が食品安全基準の緩和を求めてくるとの懸念がある。さらに国民保険サービス(NHS)や薬価制度の改革を迫られるとの見方も出ており、英側は警戒を強めている。

英米間の貿易額は年間約2,300億ポンド(約30兆円)に上る。英国際貿易省は対米FTAが発効すると、英経済を年間150億ポンド押し上げると試算しているが、英政府は3月にまとめた米国との交渉方針の中で、英GDPの押し上げ効果は今後15年で0.07~0.16%にとどまり、EU離脱に伴う損失(マイナス2~8%)を補うことはできないとの見通しを明らかにした。

英国は対米交渉と並行してEUとのFTA交渉も進めており、離脱後の急激な変化を回避するための「移行期間」が終了する年末までの協定締結を目指している。ただ、交渉は難航しているうえ、新型コロナの影響で移行期間の延長を求める声も出ており、先行きは不透明だ。

上部へスクロール