欧州委が新たな産業戦略発表、水素エネルギーで企業連合結成へ

欧州委員会は10日、2050年までに欧州連合(EU)域内の温室効果ガス排出量を実質ゼロにする気候中立を実現すると共に、デジタル分野でEUが世界の主導権を握り、域内産業の競争力を強化するための新たな産業戦略を発表した。水素エネルギーの分野で日米中などに対抗するためEU主導で企業連合を立ち上げるほか、鉄鋼などエネルギー集約型産業の技術革新を促し、温室効果ガスの排出削減を支援するための規制の見直しなどが盛り込まれている。

欧州委のフォンデアライエン委員長は声明で「欧州の産業は成長と繁栄の原動力だ。世界がより不安定で予測不可能な状況にある中、EUが最優先課題と位置づける環境対策やデジタル化を推進するため、あらゆる対策を講じて欧州産業界を支援する」と強調した。

欧州委は水素を次世代の主力エネルギーと位置づけ、技術開発でEUが主導権を握るため、域内の関連企業が参加する「クリーン水素連合」の結成を戦略の柱に掲げた。米航空機大手ボーイングに対抗するため、仏独英スペインの企業が統合して誕生したエアバスをモデルに、水素分野でグローバルな競争を勝ち抜ける欧州企業を育てる。グーグルやアップルなど「GAFA」と呼ばれる米IT大手が欧州市場で圧倒的なシェアを握っている現状を踏まえ、水素以外に産業用クラウドや原材料などの分野でも企業間の連携を促す。

エネルギー集約型産業への支援策としては、企業に対する公的補助を厳しく制限しているEU国家補助規則を改正し、2050年までにEU域内の温室効果ガス排出量を実質ゼロにする目標の達成に向けた取り組みに限り、加盟国が補助金を拠出できる仕組みを導入する。これによりエネルギー効率を高めるための技術開発や、低炭素エネルギーを低価格で安定的に確保するための資金支援などが可能になる見通しだ。21年の実施を目指して法整備を進める。

一方、中国政府による自国企業への補助金を念頭に、EU企業が域内および国際市場で競争上の不利益を受けないための環境整備を推進する。例えば域外国の支援を受けた外国企業がEU市場で公正な競争を歪めたり、EU企業が域外の公共調達市場で不当な扱いを受けた場合、EUの公共調達市場から当該国の企業を排除するなどの措置を講じることができるようにする。

さらに中小企業向けの戦略として、21~27年の中期予算枠組みにおける投資促進策「インベストEUプログラム」の下で「IPO基金」を創設し、株式公開による資金調達を後押しする。また、域内のすべての地域に工科大学や研究機関と中小企業を結ぶ「デジタル・イノベーション・ハブ」を設置し、デジタル化を進める上で企業が技術面の助言や市場情報、ネットワークへの参加機会を得られるようにする。

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