新型コロナウイルスの感染拡大を受け、域内における移動の自由を基本理念とする欧州連合(EU)内で国境を封鎖したり、外国人の入国を禁止するなどの動きが広がっている。欧州委員会は13日、国境での健康検査を加盟国に勧告したが、15日にはドイツ政府がフランスなど5カ国との国境を封鎖すると発表した。これまで入国制限に慎重だったドイツが一部国境封鎖に踏み切ったことで、域内で国境管理の厳格化が加速し、シェンゲン圏が分断される可能性も出てきた。
欧州委は13日の内相理事会で、新型コロナの感染者が域内を移動して感染が拡大するのを防ぐため、国境で健康検査を実施するよう加盟国に勧告。検査方法など詳細を詰め、近く指針をまとめる方針を打ち出した。マクロン仏大統領は同日、シェンゲン協定の域外からの入国制限を欧州委に提案したが、フォンデアライエン欧州委員長は「特定の国境管理は正当化されるが、世界保健機関(WHO)によると国境封鎖が最も効果的な感染防止策とはいえず、むしろ全般的な入国禁止がもたらす社会的・経済的な影響の方が大きい」と指摘。国境は閉鎖せずに感染拡大の防止に取り組む方針を示した。
シェンゲン協定は欧州統合がもたらした主要な成果の1つだが、新型コロナウイルスの問題では欧州で急速に感染が広がった要因との指摘もある。
感染が急拡大したイタリアと国境を接するオーストリアは10日、医師の証明書なしにイタリアから入国することを原則として禁止すると発表した。新型コロナウイルスの発生後、域内移動の自由を保障するシェンゲン協定が制限されたのはこれが初めて。また、チェコは13日、外国人の入国を原則として禁止すると発表し、デンマーク、ポーランド、スロバキアも相次いで同様の措置を打ち出した。
ドイツが国境を封鎖するのはフランス、スイス、オーストリア、デンマーク、ルクセンブルクの5カ国。16日午前8時から国境検問を実施し、物流や通勤、ドイツ国民の帰国などを除き、入出国を原則として禁止する。
一方、スペインのサンチェス首相は14日、非常事態を宣言。住民の外出を制限すると共に、生活必需品を扱う店以外のすべての店舗を休業にすると発表した。フランス政府も同日、同様の店舗休業措置を打ち出している。
こうした中、WHOのテドロス事務局長は13日の記者会見で「今や欧州がパンデミックの中心となった」と発言。感染拡大の防止に向けた主戦場が中国から欧州に移行したとの認識を示した。