欧州委が特許管理一元化に向けた法案発表、欧州単一特許制度を補完

欧州委員会は4月27日、EUレベルで特許権を統一的に管理し、域内の企業が訴訟リスクを回避しながら最先端の技術を最大限に活用できるようにするための法案を発表した。とりわけ中小企業がスマートデバイスなどの開発に不可欠な特許権にアクセスしやすくすることで、EUの競争力強化と技術的主権の確保に貢献できるようにする狙いがある。欧州議会と閣僚理事会で法案について討議し、早期の新ルール導入を目指す。

EUでは6月1日付で欧州単一特許制度の本格運用がスタートする。同制度に参加するすべての国で統一的な効力を持つ「欧州単一特許(UP)」が導入され、単一特許と従来型の欧州特許に絡んだ訴訟を専門に扱う統一特許裁判所(UPC)が設置される。現行制度における特許保護の断片化や手続きの煩雑さを軽減するため、EU全体にわたる特許権の保護および行使のためのワンストップショップを確立するのが単一特許制度の目的で、中小企業による知財利用の促進や、ライセンス供与における透明性の向上などが期待される。

欧州委が提示した法案は単一特許制度を補完するもので、標準必須特許(SEP)に関する規則案がパッケージの柱。標準必須特許は標準化機関が定める標準規格に準拠するために不可欠な特許を指す。特定の特許によって市場独占が形成されるのを防ぐため、特許権者は第三者に「公平、合理的、かつ非差別的(FRAND)」な条件で使用を許諾することが求められるが、実際には特許権者がFRAND条項を順守せず、市場支配的地位を利用して競争を歪めているとして、主に通信や自動車などの分野でしばしば訴訟に発展している。

欧州委は標準必須特許の使用許諾における透明性と予見可能性を高め、当事者間での交渉を促進して訴訟を減らすため、EU知的財産庁(EUIPO)を中心とするライセンス供与の枠組みを提案している。それによると、電気通信、コンピュータ、決済端末、その他スマートテクノロジー分野の特許権者は、EUIPOのデータベースに保有する必須特許を登録することが義務付けられる。EUIPOはライセンス供与のプロセスでFRAND条項が順守されているか監視し、特許使用料の妥当性などについて専門家の意見を聞いたうえで9カ月以内に結論を出す。一方、当事者による交渉が行われている間でも、潜在的な侵害リスクがある場合は裁判所に差し止め命令を求めることができる。このほか規則案にはEUIPO内に「コンピテンスセンター」を設置し、情報共有や中小企業に対する支援の拠点として活用することなどが盛り込まれている。

欧州委はこのほか、新規感染症の発生といった危機的状況に際し、知財当局が特許権者の同意なしに特許使用を許諾する「強制実施許諾」について、加盟国ごとに異なるルールを一本化することを提案している。新型コロナウイルス感染症のパンデミックを契機として、EUでは欧州委内に公衆衛生の危機に対応してワクチンの研究開発支援や共同調達などを行う「欧州保健緊急事態準備・対応局(HERA)」が設置されたが、強制実施許諾に関するルールを統一して法的不確実性を排除し、緊急時の即応力を強化する。

さらに、医薬品と植物保護製品の特許保護期間を延長するための補充的保護証明書(SPC)に関しても、単一特許制度に参加するすべての国で有効な「欧州単一SPC」を導入する。規制当局によって認可されたヒトまたは動物用医薬品と植物保護製品については、SPCを取得することで最大5年間、特許保護期間を延長することができるが、断片化された制度のため国ごとの適用にとどまり、EU全域で保護期間を延長するには複雑で費用のかかる手続きが必要。このため欧州委はEUIPOがEU各国の知財当局と連携して集中的に審査を実施し、1回の審査で単一SPCを取得できる制度の導入を提案している。

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