英政府は10月19日、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするための具体策をまとめた「ネットゼロ戦略」を発表した。電気自動車(EV)の普及に向けた充電インフラの整備や、原子力発電の開発支援などを進めるとともに、30年までに900億ポンド(約14兆円)の民間投資を呼び込み、44万人の雇用創出を目指す。
英国は19年に温室効果ガス排出量を50年までに実質ゼロにする目標を正式発表し、先進7カ国(G7 )で初めて法制化した。10月31日から英北部グラスゴーで開催される国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)を控え、議長国を務める英国は自国の積極的な取り組みをアピールして脱炭素化をめぐる議論を主導する狙いがある。ジョンソン首相は「グリーン産業革命を後押しする英国の取り組みは他国の模範となる」と強調。脱炭素社会の実現に向け、各国が対策を強化する必要があると訴えた。
英政府は20年11月、ゼロエミッション車への移行加速、先進的原子炉の新規建設、風力発電の促進などを盛り込んだ「グリーン産業革命に向けた10ポイント計画」を発表した。今回のネットゼロ戦略はこれを土台に、EV普及や原発など主要項目の具体的な内容や追加的な対策をまとめたもの。
EVの普及促進では、技術開発とサプライチェーン構築の支援に3億5,000万ポンド、充電スタンドの拡充などインフラ整備に6億2,000万ポンドを投じる。政府は30年までにガソリン・ディーゼル車の新車販売を禁止する方針を打ち出しており、目標達成に向けてEVの普及を後押しする。
一方、政府は35年までに電力供給システムの脱炭素化を実現する目標を掲げ、原子力発電の推進に向けて1億2,000万ポンドの新たな基金を創設する方針を打ち出した。大型原子炉のほか、小型モジュール炉(SMR)や高性能モジュール炉への投資を拡大し、化石燃料を原料とするエネルギーからの脱却を図る。
ネットゼロ戦略にはこのほか、1億4,000万ポンドを投じて二酸化炭素(CO2)の回収・利用・貯留技術の確立を支援することや、建造物や暖房システムの脱炭素化に向けた39億ポンドの基金創設などが盛り込まれている。