深刻な感染症の流行を防止するために当局から営業停止を命じられた場合、事業中断保険を締結していれば基本的に保険金を受給できる。では2020年3月からドイツで流行が本格化した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)という従来存在しなかった感染症であっても保険の対象になるのだろうか。この問題を巡る係争で最高裁の連邦司法裁判所(BGH)が1月26日に判決(訴訟番号:IV ZR 144/21)を下したので取り上げてみる。
裁判はシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州にある飲食店が保険大手アクサを相手取って起こしたもの。原告が被告と締結した事業中断保険の契約書には、感染防止法(IfSG)6条に明記された感染症、および7条に明記された病原体の拡大を防ぐために当局から営業停止を命じられた場合は、それによって失われる収入の補償を最大30日、受けられると明記。感染症と病原体の名称も列挙されている。契約の締結当時はCOVID-19もその病原体である新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)も存在しなかったため、契約書には同感染症と病原体が挙げられていない。
シュレスヴィヒ・ホルシュタイン州当局は新型コロナの感染拡大を防ぐための州令を20年3月17日付で制定し、翌日に施行した。これを受け原告は営業停止を余儀なくされたことから、アクサに保険金の支払いを請求。拒否されたことから提訴した。
原告は一審と二審で敗訴。最終審のBGHでも判決は覆らなかった。判決理由でBGHの裁判官は、COVID-19とSARS-CoV-2が契約書に記されていないことを指摘。保険のカバー対象を可能な限り広く解釈したいという被保険者の心情は理解できるが、契約書に載っていない感染症・病原体をカバー対象とすることはできないと言い渡した。