給与の差し押さえ、企業年金も対象になるか

金銭的な義務を履行しない者の給与は差し押さえの対象となり得る。では、給与の一部を企業年金に回した場合、その部分も差し押さえの対象になるのだろうか。この問題を巡る係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が10月に判決(訴訟番号:8 AZR 96/20)を下したので、取り上げてみる。

裁判は被告企業に勤務する被用者の元夫が同社を相手取って起こしたもの。同被用者は離婚協定で取り決めた連帯債務の義務を果たさなかったことから、元夫は裁判手続きを通して同被用者の給与を2015年11月に差し押さえた。このため、被告企業は同被用者の月給の一部を天引きの形で毎月、原告に送金し始めた。

同被用者は翌16年5月、給与の一部を企業年金の一種である直接保険(Direktversicherung)の保険料に回すことで勤務先企業と合意。同社は差し押さえの対象となっている給与のなかから月248ユーロを天引きし、保険料に回した。同社はこれに伴い保険料を差し押さえ対象の給与から除外したことから、原告はこれを不当として提訴した。

直接保険は生命保険型の企業年金。保険料は雇用主が任意負担することも、被用者の給与の一部を天引きの形で割り振ることもできる。受給権者(Bezugsberechtigter)は従業員であるものの、雇用主を通して加入することから、雇用主が保険契約者(Versicherungsnehmer)となる。

この裁判でBAGは原告の訴えを退けた。判決理由で裁判官は、被用者は一般年金保険算定限度額(Beitragsbemessungsgrenze in der allgemeinen Rentenversicherung)の最大4%を老齢年金の保険料に回すことができるとした企業年金法(BetrAVG)1a条1項第1文の規定を指摘。原告の元妻である被用者はこの権利を行使したのであり、保険料は原則的に民事訴訟法(ZPO)850条に定める差し押さえ給与の対象にならないと言い渡した。企業年金法1a条1項第1文の規定を民事訴訟法850条の規定に優先すると判断したのである。

BAGは保険料が一般年金保険算定限度額の4%を超えた場合については、今回の裁判の対象でないため判断を下さなかった。

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