採用した被用者が経歴を詐称していたことが分かった場合、雇用主は雇用関係がなかったことにすることができる。民法典(BGB)142条1項に、「取り消し可能な法律行為が取り消された場合、法律行為は初めから無効であったとみなされ得る」との規定があるためである。ただ、雇用関係をなかったことにできないケースもある。この問題に絡む係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が2月の判決(訴訟番号:6 AZR 92/19)で判断を示したので、ここで取り上げてみる。
裁判は履歴書に虚偽の経歴を記載していたことを理由に雇用関係がないとする通告を雇用主から受けた被用者が起こしたもの。
原告は2015年、経営上の理由による解雇の通告を受けたことから、裁判を起こし、17年2月に勝訴した。裁判の過程で原告が虚偽の経歴を履歴書に記載していたことが分かったため、被告は独自調査を実施。BGB142条1項の規定を根拠に、原告と結んだ労働契約は初めから無効だったと通告した。
原告はこの通告を不当として提訴。2審で敗訴したものの、最終審のBAGで逆転勝訴した。判決理由でBAGの裁判官は、経営上の理由による解雇をめぐる裁判で原告と被告の間に雇用関係があることを裁判所が認定したことを指摘。この認定により雇用関係の存在が確定したことから、雇用関係がなかったとみなすことはできないとの判断を示した。